遊泳舎の本棚 010.5『絶望手帖』

現在、日本では毎日およそ200点の新刊書籍が発売されています。もちろん、すべての本を読むことは到底できません。そんな中から運命の一冊を見つけてもらえれば、という想いからスタートした「遊泳舎の本棚」。

遊泳舎編集部が、独断と偏見で本を紹介する連載も前回で第10回に到達しました。そこで今回は特別編としてゲストを招き、編集部とは違った目線で本を紹介してもらいます。

それでは以下、書き手の吉田塁さんの文章です。



光があれば影もできる。最近では様々な名言集が世に出ており、その多くがポジティブなメッセージが詰まった、いわゆる「光の本」ではないかと思います。しかし、「影の本」もちゃんと出ているんです。

『絶望手帖』には、偉人、有名人、一般人の絶望的な219の名言が掲載されています。

普段、名言集はあまり読まない私ですが、「絶望」というネガティブなワードに書店でひと目見て魅かれました。なぜなら影の部分にこそ、人間の本質が現れると思うからです。

それは、哲学者ソクラテスの有名な言葉からも感じ取ることができます。

ある男に「自分は結婚したほうがいいのか、それともしないほうがいいのか」と訊かれ、彼はこう答えた。「どちらの道を選んでも、君は後悔するだろう」。

ソクラテス/哲学者


どのみち後悔するって、これぞ絶望ですよね。けれど、どこか可笑しみを感じるとともに、飾らない言葉に信頼がおけませんか?

かわいいは作れる!作りものは壊れる!

家入一真/起業家


愛されメイクやらなにやら、世の中には「かわいい」を作るためのアイテムが溢れていますが、結局、作った「かわいい」は壊れてしまう。一見、皮肉に聞こえますが、「かわいい」を作り続けることに疲弊している方への「もうしなくていいんだよ」という優しいメッセージにもとれませんかね。大事なのはやはり本質なのか? なんて考えさせられます。

「絶望手帖」という書名から受ける印象は「ただただ暗い」ですが、読み進めるとそうではないことに気がつきます。絶望の中で生まれた言葉たちは、決して読者を絶望の淵へ落とすことはありません。どこか清々しく、本質をついていたり、前向きなメッセージだったり。希望と絶望は表裏一体で、境目は非常にあいまいなことに改めて気づかせてくれます。きれいごとを並べた名言集に疲れたときは、絶望的な言葉に癒されてみてはいかがでしょうか。

それにしてもいろいろな名言集が世の中に溢れていますよね。最後に本書からの絶望名言を引用して終わりたいと思います。

誰の人生論を信じればいいのか誰か教えてください

saccoちゃん/会社員


(文・吉田塁)

吉田塁(よしだ・るい)
印刷会社、編集プロダクションでの勤務経験を持ち、商業印刷物から、ファッション誌、実用本、WEBなど、様々なコンテンツを作成。フィクションからノンフィクションまで幅広いジャンルを手掛ける。

絶望手帖
発案:家入一真/編集:絶望名言委員会/イラスト:死後くん
発行:青幻舎
ISBN:978-4-8615-2512-4

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