遊泳舎の本棚042『寿命図鑑』

幼い頃、図鑑を読むのが好きでした。地球上にはまだまだ自分の知らない生き物がたくさんいるのだと、写真を眺めながら想像を膨らませるのが楽しくて仕方なかったのです。図鑑は、部屋にいながら様々な生き物と出会える、小さな動物園や水族館のような存在。遊泳舎の本の全てにイラストが使用されているのも、ビジュアル要素が持つ「ワクワク感」を幼少期に図鑑から感じたことがルーツになっているのかもしれません。

仕事柄よく目にするのは、「図鑑」と銘打っているものの、実際は四六判やA5判サイズの大人向けの実用書。大判で重量感があり、机の上にどっしりと広げて読む純粋な図鑑には、大人になるにつれて触れる機会は少なくなりました。この『寿命図鑑』の佇まいは、まさに幼少期に読んでいた図鑑そのもの。可愛らしいイラストでにぎわう表紙には「生き物から宇宙まで 万物の寿命をあつめた図鑑」とあります。

本を開くと、様々な種類の生き物のイラストと、それぞれの生き物の平均寿命がその生態とともに掲載されています。たとえば「鳥の寿命」の章では、ニワトリの寿命が10年、カラスの寿命が8年であるのに比べ、スズメの寿命はわずか1.5年。8年前に見かけたカラスと今日見かけたカラスが同じ個体である可能性にも驚きますが、同時に今日見かけたスズメには2年後にもう会えない可能性の方が高い事実に切なくなります。犬や猫、ハムスターなどのペットを飼っている人は、余計にこの「寿命」という逃れられない数字に心が痛むでしょう。

また、ページをめくっていくと「寿命」のとらえ方が少しずつ変わっていく点もユニークです。「食べ物の寿命」の章では、適した場所や方法で保管した場合の、安心しておいしく食べられる期間、いわゆる「賞味期限」や「消費期限」が寿命として扱われています。さらに「モノの寿命」や「機械の寿命」の章では、平均して使用できる期間が寿命とされていて、生き物の章では生態が紹介されていた説明文が、生活の知恵や人に話したくなる教養に変わっている点にも注目です。

たとえば「大リーグのバット」の寿命はおよそ8ヶ月とされ、次のような説明文が添えられています。

木製バットの寿命はさまざま。たった1回打っただけで折れてしまうものから、何シーズンもつかえるものまで。スライダーなどの変化球ではヒビが入りやすい。大リーグではバットが1シーズン生きられることは、めったにないんだ。

P61「モノの寿命」より


他にも、細胞の再生やまつ毛の生え変わりの期間などを紹介した「からだの寿命」や、飛行機雲の見える時間や梅雨の期間を紹介した「天体の寿命」など、多岐にわたる分野の章が存在します。まさに「寿命」という切り口に特化した、オールスターのような一冊。企画のアイデアは思いついたとしても、ここまで充実した内容に作り上げるのは、そう簡単なことではありません。

そして最後に、何より心に響いたのが、次のあとがきの言葉です。

みんないつか死んでしまうから、
夢を叶えようとしたり、家族をつくろうとしたりするんだ。
いつか枯れてしまうから、花が咲くとうれしいんだ。
壊れたり無くなったりしてしまうかもしれないから、
宝物にしたくなるんだ。
すぐに消えてしまうから、虹を見たとき感動するんだ。

P107「あとがき」より


お気に入りの靴や洋服も、大好きなペットも、最新の家電も、子孫や建物を除けば身の回りのほとんどは自分より先に寿命が尽きてしまいます。別れはとても辛いものですし、せめて最期の一日まで目を背けていたいと思うのが人間の心理でしょう。本書はそんな尊いテーマに「図鑑」という姿で挑みながら、いつか別れが来るからこそ、今を大事にしなければいけないと教えてくれます。

(文・望月竜馬

寿命図鑑
絵:やまぐちかおり
編著、発行:いろは出版
ISBN:978-4-86607-010-0

Begin typing your search term above and press enter to search. Press ESC to cancel.

Back To Top