遊泳舎の本棚044『競馬語辞典』

コロナ禍になってから、友人とお酒を飲みに行ったり、旅行に出かけたりする機会が作りづらくなりました。とはいえ人生には息抜きとなる楽しみが必要不可欠で、この二年間、誰もが「おうち時間」を少しでも充実させようと過ごしてきたはずです。その結果が『あつまれ どうぶつの森』の大ヒットや、オンライン飲み会の普及などに繋がっているのではないでしょうか。

私も例に漏れず自宅でできる趣味を模索し、いくつか始めてみました。その中の一つが「競馬観戦」です。コロナ禍の影響もあってか近年の競馬の売上は好調で、さらにゲーム『ウマ娘』をきっかけとして、若い世代にもその人気は高まっています。

競馬との出会いは2019年。友人に連れられて競馬場へ行ったのがきっかけです。それまで「競馬=ギャンブル」のイメージが強く、競馬場は酔っ払いがそこらじゅうに寝転がっていたり、はずれ馬券が散らばっていたりするような、ギスギスした近寄り難い場所だと思っていました。しかし実際に訪れた競馬場は広くて綺麗で、まるで博物館のような佇まい。飲食店や公園、馬との触れ合いスペースも併設されており、ファミリー層や若いカップルの姿も多く見受けられました。当然、生で観るレースの方も大迫力で、思い描いていたギャンブルとは全く違う、スポーツ観戦に近い体験だと感じたのです。

その思い出から、コロナ禍になりあらためて週末に自宅で競馬を観戦するようになりました。騎手や厩舎の強い想いや、馬の成長を追いかけていると、たった1つのレースにしても、出走する全ての馬にそこに至るまでの物語があり、その先へつづいていく未来があるのだと実感させられます。

今回ご紹介するのは、そんな競馬をより深く楽しめる一冊。

あらゆる業界には、「専門用語」が存在します。専門用語はスムーズな情報伝達を担っていると同時に、ときに文学的な比喩が使われているなど、その表現力に唸らされることがあります。

中でも競馬は、専門用語が多いスポーツの一つです。本書は無数に存在する競馬用語を五十音順で紹介。言葉の表現力を味わいながら、競馬の歴史や裏側にも親しむことができます。

誕生日馬券【たんじょうびばけん】
誕生日の数字で買う馬券のこと。初めて競馬場に行った初心者などはこの方法で買うことが多いようですが、それでとんでもない大穴を当てたりします。

P119より


ボロ【ぼろ】
馬糞のこと。牧場で牧草だけを食べている馬の糞はあまり臭いませんが、競走馬のエサにはサプリメントなど色々入っているので、けっこうキツイことも。パドックで馬がボロを落とす光景はよく見られますが、「ウン(運)を落とす」と言って馬券対象外にする人もいるようです。

P162より


単なる用語の解説に終始するのではなく、経験者なら思わず共感できるエピソードを交えながら、ユニークな言い回しで綴られているため、コラムを読むような感覚で楽しむことができます。

また、各章の終わりには騎手や馬主、調教師や装蹄師といった競馬にまつわる人々のインタビューを掲載。それぞれの視点から見た競馬の魅力が伝わります。他にも競馬場マップや馬券の種類、競走馬の一生、競馬を題材としたレトロゲームの紹介など、あらゆる角度から競馬に迫るページが満載。すべてイラストつきで解説されているため、初心者にもやさしい一冊に仕上がっています。

さらに読み進めていくと、本編の途中に一部用紙やサイズの異なるページが現れます。これは本書の監修を務める元騎手の細江純子さんによるとじこみ付録「ウマのウラ話」。名馬7頭のエピソードが紹介されており、テレビ番組の途中で挟まれるミニコーナーのように趣向を変えて楽しめます。

そして特にこだわりを感じたのは、左ページの左下には「障害レース」のオジュウチョウサン、右ページの右下には「平地レース」のゴールドシップの小さなイラストが描かれていて、パラパラ漫画になっている仕掛け。常識にとらわれず、書籍という媒体を最大限に活かした遊び心がつまっています。

週末の昼下がりは、競馬中継のお供にぜひ本書を開いてみてください。

(文・望月竜馬

競馬語辞典
著:奈落一騎
監修:細江純子
発行:誠文堂新光社
ISBN:978-4-86607-010-0

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