遊泳舎の本棚 006『日本のポスター』

仕事柄、ときどきポスターを作る機会があります。といっても、基本的には書店向けの販促物として、本の内容を紹介したもの。ポスターデザインだけを生業にしているわけではないので、世の中にあふれる様々なポスターを目にするたび、「このコピー、痺れるなあ」「このビジュアル、どうやって思いついたんだろう」と唸ってしまいます。

先日『悪魔の辞典』『ロマンスの辞典』のポスターを作ってみました(こちらのページからご覧いただけます)。作ってみて思うのは、やはりポスターは一筋縄ではいかないということ。

今回は、そんなポスターにまつわる一冊をご紹介します。

よく、映画のポスターなどを取り上げて、「日本のポスターは海外に比べてダサい」なんて声を耳にします。確かに、商品やサービスのジャンルによっては、情報を詰め込みすぎるあまり、ポスターとしてのかっこよさが薄れてしまっている場合もあります。しかし、それも営業戦略の一環なら、仕方のないこと。そういった雑多な部分も含めて日本の文化だと思えば、どこか愛くるしく感じられます。

それに、実は日本のポスターもなかなか捨てたものじゃないんです。本書は京都工芸繊維大学美術工芸資料館の貴重な収蔵品コレクションを一冊の本に収めたもの。文庫サイズながら、非常に存在感のある佇まいになっています。

本書の帯で、谷川俊太郎さんがこう語っています。

確かにポスターは時代を映す鏡。
日本のポスターには海外のポスターを見るのとは違う切実な感慨を抱きます。

帯コピーより引用


キャッチコピーの言い回しや使われている漢字、フォントや色使い、映っている人物や風景など、ポスターには時代がそのまま閉じ込められているように思います。一歩間違えば批判の対象となるような過激で大胆なデザインのものも多く、受け手の感性を信頼した上で行われる危うい駆け引きがあったのではないでしょうか。

パラパラとめくって眺めるだけでも十分に楽しい本ではありますが、「こんなポスター、今の時代じゃ作れないな」そんな風に、一枚一枚、想像を巡らせながら読み解いていくこともできる、非常に歴史的価値のある一冊です。みなさんもポスターの奥深い世界を、覗いてみませんか?

(文・望月竜馬

日本のポスター 京都工芸繊維大学美術工芸資料館デザインコレクション3』
著:並木 誠士、和田 積希 
発行:青幻社
ISBN:978-4-86152-656-5

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