みなさんに、「とっておきの待ち合わせ場所」はありますか? 住んでいる場所、勤務地、職業、交通手段など、人によって便利な場所は変わってくると思いますが、誰にでも、待っている時間さえも幸せに感じられる特別な場所が、ひとつくらいあるのではないでしょうか。
たとえば私は、仕事の打ち合わせなどでは、よく喫茶店で待ち合わせをします。ターミナル駅では大体決まった店を使うことが多いのですが、降り慣れない駅を利用するときは、相手にお薦めの店を教えてもらったり、あるいはインターネットで見つけた良さげな店に、思い切って飛び込んだりします。
今回は、そんな「待ち合わせ」のひとときを少しだけ豊かにしてくれる一冊をご紹介します。
本書ではターミナル駅、ビジネス街、休日という三つの章に分け、それぞれの駅のお薦めのスポットが掲載されています。そのシチュエーションは多様で、喫茶店はもちろん、ホテルのロビーや空港、書店など、場所によって過ごし方も異なるのがポイントです。
本書は決して単なるガイドブックではありません。スポット紹介の合間に、待ち合わせに関するコラム、詩やエッセイなどが添えられていて、「待ち合わせってこんなに素敵なものだったんだ」と、思いを馳せてしまいます。
曇り空の午後、駅前広場でひとりぽつんとたたずんでいるようなとき、時間は、身体のなかで長くなったり短くなったり、さまざまに変化して、老人を若者に、若者を子どもに連れ戻す。
「この一冊の前で/堀江敏幸」より
待っているあいだ、人は様々なことを考えて、様々な仕草をします。早く着きすぎたかな、もうすぐ来るかな、どんな話をしようかな……。ポケットに手をつっこんだり、スマホをチェックしたり、流れてゆく人ごみを眺めたり。周囲を注意深く気にかけながらも、その場からは動けない状態で、心が揺れ動くことが多いと思います。
そんな待ち合わせの時間は、いわば一日の中にできた小さな隙間。そんな貴重な時間だからこそ、新しい発見ができることもあります。本書をきっかけに待ち合わせに詳しくなれば、きっと誰かを待つことさえ楽しくなってくるでしょう。
(文・望月竜馬)
『東京待ち合わせ案内』
発行:プチグラパブリッシング
ISBN:978-4939102981