私が赤ん坊だった頃、どんなに泣いていても、アニメ「ゲゲゲの鬼太郎」のエンディングテーマ「おばけがイクゾ~」(歌:吉幾三)を子守唄に歌えば、すぐに泣き止んでスヤスヤと眠ったそうです。
みなさんは妖怪っていると思いますか? 今の私は見えるもの、触れられるものしか信じない質なので、妖怪や幽霊、お化けはもちろん、神や仏といった類はいないと思っています。
そんな私がオススメする今回の一冊は、私が赤子のときにお世話になった「ゲゲゲの鬼太郎」の作者、水木しげる氏による図鑑的新書です。
本書の特徴として挙げておきたいのが、新書でありながら200ページ以上のオールカラーであること。そして本体1000円とお手頃価格であることです。水木氏の画集を自室の本棚に置くことができると考えれば、これは安いと思います。
内容も、河童、ぬらりひょん、座敷童子などの有名どころから、琵琶ぶらぶら、首かじりなど本書ではじめて知った妖怪まで、100余りがお馴染みのタッチで描かれた妖怪がカラーイラスト付きで紹介されています。しかも、それぞれの妖怪に添えられた文章も明快なので、見て、読んで楽しめること間違いなしです。
なにより著者が生涯を通して描き続けた妖怪という存在を、心から楽しんでいる気持ちが読み手に伝わってきます。
いわゆる文明国というのは、遠い昔に“霊的”な感度をわすれ、物を作ることに専念し過ぎたのかもしれない(大きなものを落としたのだ)。
「奇想と楽しむ日々」より
我々はもともと“霊々(かみがみ)の世界”からやってきたものであり、そして“霊々の世界”に去っていく存在なのだ。
もう少し“霊的なもの”に関心をもってもいい。
非科学的で不確かな存在に思いを馳せる行為は、衣食住のどれにも当てはまりませんし、生きてゆく上で必須というわけではありません。ですが、このような余暇を楽しもうとする気持ちこそが人間らしさであり、モノクロな人生を彩り豊かにする行為だと思います。
本コラムの冒頭で、私自身は妖怪や幽霊、神や仏を信じていないと書きました。しかし、これらがない世界というのも、つまらないと思っています。ときには仕事やお金から離れて妖怪の世界に浸っているのも良いものではないでしょうか。
(文・中村徹)
『カラー版 妖怪画談』
著:水木しげる
発行:岩波書店
ISBN:978-4-00-430238-4