遊泳舎の本棚 012『上を向いてアルコール 「元アル中」コラムニストの告白』

突然ですが、みなさんは「お酒」にどんなイメージを持っていますか? 人間関係を円滑にする魔法の薬、と唱える人もいれば、百害あって一利なしの猛毒だ、と揶揄する人もいるでしょう。どちらも正解かもしれません。

最近はお酒をまったく飲まない人も増えているそうですが、テレビや電車広告でも魅力的なお酒の宣伝はたくさん見かけますし、コンビニやスーパーのお酒売り場に立ち寄るたびに、次々と新商品が並んでいるのを目にします。夕方に仕事で繁華街を通ると、まだ明るいうちに居酒屋で顔を赤らめているおじさんを見かけたり、若者のSNSにアップされた楽しげな飲み会の様子が流れてきたりすることもあります。まだまだお酒は日本の大人と切っても切れない関係にあるようです。

かくいう私もお酒が大好きで、二十歳くらいの頃はよく無茶な飲み方をしていました。今でも仕事終わりの晩酌が日々の楽しみで、お酒を飲んでいなかった頃の生活が思い出せないくらいです。そんな当たり前に口にしているお酒ですが、実はとても恐ろしいものかもしれません。

今回ご紹介するのは、「元アル中」コラムニストである小田嶋隆さんによる、お酒と格闘してきた日々の記録。「元アル中」とは言いながらも、「厳密にはアル中は治らない」と小田嶋さんは綴っています。

医者が言うには、アルコール依存は決して治ることはなくて、アルコール依存患者が酒をやめている状態というのは、坂道でボールが止まっているみたいなもので、酒を飲まないでいる間だけ暫定的に”断酒中のアルコール依存者”というものになっているに過ぎないんです

(本文中より)


つまり、「今日でお酒をやめる!」と宣言して、スパッとアルコールとの関係を断ち切ったつもりになっていても、実際にはこれから一生継続していく断酒の最初の一日が始まったに過ぎない、ということ。恐ろしくも、身につまされる話です。

出版業界で働いていると、異業種の人からは、クリエイティブな仕事をしているように見られることがあります。事実、自分自身も多少なりそういう自負があるので、「お酒を飲んで身を削りながらの方が面白いものを生み出していくことができる」と錯覚することもあります。それに、仕事の付き合いでお酒を飲むことも多く、「お酒を飲んでナンボ」という思考になりがちです。もちろん、お酒が創作によい効果をもたらすこともあるので、一概に否定することはできません。

もっとも、その場合、文章に深みを与えたのは、酒そのものではなくて「失敗」だ。(中略)失敗は、成功の母のような顔をしているが、たいていの場合、別の失敗の愛人であり、さらに別の失敗の母親になるものだからだ。

(本文中より)


お酒が好きなら、なおさら、お酒の悪いところにも目を向けるようにしなければなりません。お酒に限ったことではありませんが、物事には、良い面と悪い面が必ずあります。その中で、悪い面の存在もしっかり認めた上で、どう付き合っていくか、が大事なのでしょう。お酒が好きな人にこそ、ぜひ読んで欲しい一冊です。

(文・望月竜馬

上を向いてアルコール 「元アル中」コラムニストの告白
著:小田嶋隆
発行:ミシマ社
ISBN:978-4-909394-03-3

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