「日本酒=おじさんの飲み物」。そんなイメージがあったのもひと昔前のこと。近年では、味へのこだわりはもちろん、趣向を凝らしたスタイリッシュなラベルも増え、日本酒は若者や女性でも気軽に楽しめる存在に変わりつつあります。
かくいう私も日本酒がきっかけでお酒が好きになった若者の一人です。夏になるとつい冷たい日本酒を飲みたくなってしまうのですが、あんなに美味しいものを知らずに夏を迎えるなんてもったいない……そんな少々おせっかいな気持ちを込めて、今回は日本酒の魅力に気づかせてくれる素敵な一冊をご紹介します。
著者は京都出身のイラストレーター、松浦すみれさん。醸造関係者の間では有名な、お酒に縁の深い京都の松尾大社で巫女として働いていたことから、日本酒に興味を持つようになったという、一風変わった経歴の持ち主です。本書は、そんな著者が自身の足で関西の酒蔵を巡り、丹念に取材をし、文章からイラストまで全て一人で書き上げたという愛のつまったイラストルポ。
まず、本を手に取ると、すべすべした手触りの白いカバーには、透き通るような水彩のイラストが美しく映えています。本書の一番の魅力は、やはりこの松浦さんのイラストではないでしょうか。お酒は、味や香りだけでなく、目でも楽しめるもの。味のある手描きのイラストは、一言では表せない日本酒の奥深い色合いと見事にマッチしています。
また、イラストだけでなく、取材の密度にも目を見張るものがあります。「関西」と冠したタイトルの通り、酒蔵の街として知られる伏見を擁する京都や、生産量全国No.1の兵庫はもちろん、滋賀や和歌山など、銘酒の揃う関西の各県をくまなく押さえているのです。それぞれ、最寄り駅に着いてから酒蔵に向かうまでの道のりを、旅情たっぷりに描写していて、単なる情報としてではなく、実際に自分がその土地を訪れたような気持ちにさせてくれます。
寄り道しながら、のんびりと酒蔵を目指して歩く。日本がはぐくんだ風土や気候、山々やその土地を愛する人々、そのどれを欠いても生まれてこない、その土地の酒がある。
P3「日本酒ガール誕生」より
この酒はどこから生まれたか。少しでもそれを知りたくて、伝えたくて、私は今日も旅に出る。
日本酒は、原料となるお米の種類や使用する水、製法の違いなど、土地ごとにも、蔵ごとにも、一つとして同じものはありません。つまり、日本酒を知るということは、その土地を知ることにつながるのです。
大人の旅にお酒はつきもの。特に酒蔵のある街は、昔ながらの風景が残っている場所が多いため、観光とお酒を同時に楽しむことができます。本書を片手に旅へ出かければ、それぞれの土地の歴史や文化、美しい自然や作り手の笑顔といった、新たな魅力とともに、お酒の味も一段と美味しく感じることでしょう。
(文・望月竜馬)
『日本酒ガールの関西ほろ酔い蔵さんぽ』
著:松浦すみれ
発行:コトコト
ISBN:978-4903822-617