「筋肉は裏切らない」「あと5秒しかできません」などのパワーワードを生み、瞬く間に世間の話題をさらい、年末の国民的番組「紅白歌合戦」に出演まで果たしたNHK「みんなで筋肉体操」。3人のマッチョな男たちが5分間、ほぼ無言でひたすら筋トレをやり続ける番組の中で、特に注目を集めたスウェーデン出身の庭師・村雨辰剛氏の自伝的エッセイをご紹介します。
テレビで村雨氏を知った方が気になったであろう彼の日本的な名前や職業とルックスのギャップについても語っていますし、巻頭の16ページは村雨氏の仕事姿などの写真がカラーで掲載されており、端正な顔立ちや肉体美も披露しています。しかし、それはこの本の魅力の一部に過ぎません。
本書では、ひとりの人間が異国の文化に興味を抱き、目標を持って挑戦する姿が真っ直ぐに綴られています。
なにより、村雨氏の生まれ育ったスウェーデンの文化を知ると同時に、日本の文化を改めて見直したり、考えさせられたりする貴重な一冊なのです。
例えば、教育面について。スウェーデンでは自分がどんな職業に就くのかの選択が日本より早いことなどを知ることができます。
根本的な話をすると、スウェーデンでは自分が何を将来やりたいかによって、高校で何を勉強するかが決まる。つまり、高校で何を学ぶかで将来の職業がある程度制限されるのだ。
「第2章 日本での生活 スウェーデンの教育システム」より
また、グローバル化が進む中で、日本の伝統文化が海外からどのように映り、どのような可能性があるのを考えさせられるキッカケになり得る本だと感じました。
日本の伝統分野は、海外視点で見ると十分なビジネスチャンスがあるのに後継者が不足している。いま日本政府はインバウンド消費に力を入れているが、そこで日本独自の文化に魅了された(かつての僕のような)人たちが、自国でもそれに触れいきたいと思う機会は増えていくはずだ。先述したように、日本庭園だけでも需要はけっこうある。
「第4章 庭師・村雨辰剛として 徒弟制度は良い仕組みか」より
近年、日本に訪れる外国人観光客が増加しているといわれています。実際、様々な観光地は多くの外国人で賑わっています。しかし、日本の歴史や伝統、文化について詳しく知っているかといわれると自信がないという人も多いのではないでしょうか?
日本を外から見てきたからこそわかる日本の文化や庭園の魅力。ゼロから庭師としての技術を学び習得してきた努力。そして、そんな彼を支えている家族や日本で出会った親方に対する愛情の深さなど、村雨氏の人間力が感じられます。
(文・中村徹)
『僕は庭師になった』
著:村雨辰剛
発行:クラーケン
ISBN:978-4-909313-06-5