みなさんの心に残っている「絵本」はありますか? 多くの方は、初めて触れた本の記憶が絵本なのではないでしょうか。自宅にある絵本を繰り返し読んだり、幼稚園や小学校で読み聞かせをしてもらったり、絵本は私たちに読書の魅力を教えてくれる大事なきっかけといえます。
さて、そんな私がもっとも心に残っている絵本は、実は大人になってから出会ったものでした。大人になってから絵本を手に取る機会は何度かありましたが、その度に湧き上がるのは、昔読んでいた頃の記憶を思い出す「懐かしさ」や、大人の目線からも楽しめるような工夫が施されていることへの「感心」でした。
あくまで絵本は子供が読むもの……そう思い込んでいたのかもしれません。しかし、そんな考えを根底から覆したのが本書です。私は絵本というジャンルを抜きにして、一冊の「本」として衝撃を受けました。
真っ赤な背景に、ワインを手に微笑むリアルなタッチで描かれたライオン。タイトルに含まれる「悪者」の文字や、「考えない、行動しない、という罪」とだけ書かれた帯コピー。「絵本」という先入観で手に取ったものの、どこか不穏な空気も醸し出す装丁に、緊張感が漂います。
表紙を開くと、カバーの袖に記されているのは「これが全て作り話だと言い切れるだろうか――」。まるで映画のナレーションのように、物語の世界に引き込まれます。この時点で、「これはただの絵本じゃないな」と、予感が確信に変わるのです。
物語の舞台は、動物の住む国。表紙にも描かれている金のライオンは、お金持ちで美しく、街でも目立つ存在です。物語は、年老いた王様が、国民で話し合って次の王様を決めるようにおふれを出すところから始まります。
当然、次の王様候補として金のライオンは名乗りを上げます。ところが、街で対抗馬として噂に上がったのは銀のライオン。彼は金のライオンのようにお金持ちでもなければ、美しい格好をしているわけでもありませんが、他の動物を助けるなど、心優しいことで知られています。
王様の座を危ぶんだ金のライオンは、銀のライオンを陥れるため、良くない噂を流し始めます。その噂は、みるみるうちに広まっていくのですが……。
「嘘は、向こうから巧妙にやってくるが、
(p43より)
真実は、自らさがし求めなければ見つけられない」
結末は、どうかみなさんご自身の目で確かめてみてください。
ここまでのあらすじを読むと、金のライオンが悪者で、銀のライオンが正しい。そんな対立構造のように考えるのが普通ですが、それだけで終わらないのが本書の素晴らしい点であり、恐ろしい点でもあります。ふたりのライオンが軸にはなっていますが、ある意味主人公不在のまま、ドキュメンタリーのような視点から、淡々と物語が映し出されるのです。そして、最後まで読んだとき、タイトルの意味が明らかになり、思わずため息がこぼれることでしょう。
これほど伝えたいテーマがはっきりと存在していながら、そのテーマにあえて「絵本」という形で真正面からぶつかっている本書。大人にも、子供にも、全ての人に読んで欲しい一冊です。そして、読んだあとに、じっくりと考えてみてください。自分自身も、もしかしたら「二番目の悪者」になってしまっていないだろうか、と。
(文・望月竜馬)
『二番目の悪者』
作:林木林/絵:庄野ナホコ
発行:小さい書房
ISBN:978-4-907474-01-0