遊泳舎の本棚035『桃のふわり鉄道旅』

今年のゴールデンウィークは、自宅で過ごした方が多いのではないでしょうか。出かけたくても出かけられない、そんなときに一瞬で旅に出たような感覚に誘ってくれるのが本の魅力だと思っています。今回ご紹介するのは、そんな旅行欲を満たしてくれる一冊。

本書はJRの路線すべてに乗車した「鉄道アイドル」として知られる伊藤桃さんによる鉄道紀行ブックです。帯コピーの「鉄分120%」という言葉通り、アイドルのポップなイメージを良い意味で裏切ってくれるディープな内容に仕上がっています。JR北海道からJR九州までが路線ごとにまとめられ、路線の全長や駅数といったデータを始め、近隣の飲食店や観光情報なども、旅人にとって嬉しい情報です。

特筆すべきは、各路線の紹介文が、単なる客観的な情報に終始していない点。伊藤さんの旅の最中の気持ちや、伊藤さんの視点で美しいと感じた風景などが詩的な文章で綴られているため、まるで自分も同じ場所を訪れているかのような臨場感を味わえるのです。

佐伯駅でぶらぶらとして時間をつぶすことにした。桜が咲く春だった。駅から港までは歩いてすぐなので、穏やかな潮騒と潮の香りに身を委ねながらただ、誰もいない波止場でのんびりとしていた。

(P207「日豊本線」より)


列車の待ち時間や、行くあてもなく歩く時間、観光地ではないけれど気に入った場所や建物など、旅の最中に訪れる「偶然の出会い」を共有できるのは、本書ならではです。また、紙面を彩る写真の数々も、より想像を膨らませてくれます。


各章の間に添えられたコラムでは、お得な切符情報やオススメの持ち物など、旅に欠かせない情報が紹介されています。また、巻末に収録された、鉄道マニアとして『タモリ倶楽部』への出演などで知られる、芸能事務所ホリプロのマネージャー、南田裕介さんとの対談も見逃せません。

いくら言葉にしてもこの魅力のすべてを伝えきることは到底かなわない。

だからどうかあなたも鉄道に乗ってみて、自分だけの宝物をみつけてほしい。
願わくは、この本がその宝物探しの手助けになりますように。

(P19「はじめに」より)


まさに、鉄道愛がぎゅうぎゅうに詰まった一冊。ぜひ、みなさんも掌の上の鉄道旅行に出かけてみてください。

(文・望月竜馬

桃のふわり鉄道旅
著:伊藤桃
発行:開発社
ISBN:978-4759101560

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