私は海が好きです。そのきっかけとなったのが、二十歳の頃に半年間住んでいた祖母の家でした。海に近く、歩いて5分ほどの海岸で海を眺めるのが好きだったのです。海岸には流木など様々なものが漂着していましたが、その中でも美しいと思ったのが「貝殻」。人類は太古の昔から、海岸に転がる貝殻を見て大海に思いを馳せたといわれています。人の手によって加工されずとも完成された美しさを有した貝殻の魅力は時代を問わないのかもしれません。
今回の「遊泳舎の本棚」は、貝殻を紹介したアート図鑑『子どもと一緒に覚えたい 貝殻の名前』をご紹介します。
本書に掲載されているのは、海水浴場などで拾える身近な貝殻です。この“身近な”という点が、たくさんの共感を集める要因ではないかと思います。
この本では図鑑に載っているような、
P2「はじめに」より
素晴らしいけれど、なかなか拾えない貝殻ではなく、
運が良ければ、その辺で誰でも拾える貝殻だけを集めました。
本文では、貝殻の種類や名前をただ羅列するのではなく、一つひとつの貝殻を東海大学海洋学部と海洋科学博物館の監修による、わかりやすくもしっかりとした解説で掘り下げており、大人から子どもまで、楽しみながら学ぶことができるはずです。
サザエといえば角がシンボル。でも角がないサザエもいる。それは種類の違いや、オスメスの違いではなく、環境の違いと言われている。波の荒いところでは角が大きく育ち、内湾の波が静かな場所では、まったく角がないサザエも。
P22「サザエ[栄螺]」より
そして、最大の特徴はイラストと写真の両方がたくさん使われている点です。絵を担当されている加古川利彦さんの柔らかい雰囲気のイラストは見ていて温かみを感じさせてくれますし、イラストとともに掲載されている写真は図鑑として実物の情報をしっかりと伝えてくれます。本の判型もB5判変形と大判なので、タイトルにもあるように親子で一緒に眺めて学ぶのも楽しいはずです。
拾ってきた貝殻をインテリアやクラフト、遊び道具などに活用する方法や、標本のつくり方も記されており、夏休みの工作や自由研究のテーマにもぴったりです。「子どもと一緒に覚えたいシリーズ」には他にも『道草の名前』『野鳥の名前』『毒生物の名前』があり、自分自身や子どもの興味に合わせて選ぶこともできます。この夏は親子で少しだけ貝殻の世界を覗いてみるのも悪くないかもしれません。
(文・中村徹)
『子どもと一緒に覚えたい 貝殻の名前』
監修:東海大学海洋学部・海洋科学博物館
絵:加古川利彦
発行:マイルスタッフ
ISBN:978-4-295-40336-4