「花鳥風月」という言葉をご存知でしょうか?
花や鳥、風、月などの自然の中の美しい景色のことで、歳を重ねることで少しずつ良さを感じていくことから、“老い”や“歳を重ねる”という意味でも使われるそうです。
私も大人になってから夏の雨の匂いに、どこか懐かしさを覚えて嬉しくなったり、家族が散らかした部屋を夜中に見て、かえって愛おしい気持ちになったりすることが増えたように思います。
そういう経験をすると「自分も歳を取ったなぁ」と思うのと同時に、幸せとは特別な出来事ではなく、日常の些細な風景にこそ宿るものなのだと感じるのです。
今回、ご紹介させていただくのは、日本一有名なコピーライター・糸井重里さんが『ほぼ日刊イトイ新聞』とTwitterに投稿している2019年1年間の日常の言葉をまとめたエッセイ集です。
本書の中で綴られているのは、何気ない出来事を満ち溢れるものとして映し出した日常です。小難しいことを延々と壮語するでもなく、何かを訴えて誰かを自分の考えに染めてやろうというわけでもありません。糸井さんが日々暮らす中で感じた気持ちを飾らずに滔々と語っているように受け取れる文章は、決して派手ではないかもしれませんが、人が生きていく上で大切な心のあり方を描き出しているように思います。
生活ってことばがあるけれど、
P284「生を活かす」より
それって、夢のない、おもしろくないもの
みたいに思われがちだよね。
でも、生活って「生を活かす」ってことだとしたら、
なんか、それがすべてでもかまわないくらいに
大きくて広くて豊かなものだと言えるぞ。
たのしみも、しあわせも、よろこびも、
生活のなかに息づいているもんな。
また、糸井さんの言葉は平易でありながらも、哲学的に核心を突いているように感じます。そのため、読み進めるうちに彼の文章をきっかけに、いつの間にか自分の頭の中で問答をはじめてしまいそうになるほどです。
しみじみ思うのは、
P190「人間のこどもの成長」より
人間のこどもの見事なまでの成長の遅さである。
孵化した途端に歩き出すのカマキリだとかは極端だとしても、
哺乳類の人間という種の「のんびりやさん」ぶりは、
とにかく群を抜いているし、そこから考えることが多い。
歩けるまでに、まず1年かかる。
親の目が届くエリアから抜け出せるまでには10年。
じぶんでエサをとってこられるようになるには20年か。
本書の言葉が綴られた2019年は糸井重里さんに「娘の娘」が生まれた年とのことで、「こども」についての文章がたくさん掲載されています。自分の子どもや自分を育ててくれた親、自分の子ども時代を想って心を真っすぐにさせてくれる言葉に向き合ってみてください。
(文・中村徹)
『こどもは古くならない。』
著:糸井重里
イラスト:ヨシタケシンスケ
発行:ほぼ日
ISBN:978-4-86501-593-5