遊泳舎の本棚 030.5『よみがえる変態』

現在、日本では毎日およそ200点の新刊書籍が発売されています。もちろん、すべての本を読むことは到底できません。そんな中から運命の一冊を見つけてもらえれば、という想いからスタートした「遊泳舎の本棚」。

遊泳舎編集部が独断と偏見で本を紹介する連載も、早いもので第30回に到達しました。20回到達記念の時と同様、今回も特別ゲストをお招きし、編集部とは違った目線で本を紹介してもらいます。

それでは以下、書き手のセロ弾きの書店員さんの文章です。



最初に謝らせてください。

他人に推せる本を選べと言われ、何の迷いもなくこの本を選ばせていただきました。ですが私、星野源さんのファンというわけではないのです。

もちろん、星野さんが所謂スターだということくらいは流石に知っています。

しかし、「あー知ってる、知ってる。『恋』とか『SUN』とか、あとはなんか『ドラえもん』の人でしょう?」程度のにわかでございます。

我々、凡人一般人とは、まったく違う思考回路で、まったく違う世界を視て、歌って、演じて、さぞ華やかな世界を生きているのでしょう。あの芸能人と仲良くしたり、莫大な富で優雅に暮らしたり、我々には想像もつかない生活を送っているのかもしれません。

そんな星野さんの日常を覗くことができるのが、こちら『蘇る変態』です。

本作は、雑誌「GINZA」での連載エッセイをまとめて書籍化したもので、〆切に追われ、楽曲制作に追われ、舞台に追われ、ライブに追い詰められる星野さんの日常が描かれています。

1ページ目からペラペラめくっていくと、

なんだかんだいつも仕事の悩みは尽きないので、ため息まじりに自宅で何度も「おっぱい触りたい」「ああおっぱい揉みたい」と声に出していると、予想以上に幸せな気持ちになり、怒りや落ち込みを増幅させる負のスパイラルを断ち切る効果がある気がした。

P6「おっぱい」より

個人的によくやるストレス解消法は、ボールペンでもサインペンでもなんでもいいので、それを使い、白い普通の紙をとにかく真っ黒く塗りつぶすという方法だ。~中略~その他にも「枕に顔を埋めてスケベな言葉を絶叫」や、部屋の扉等に肩がぶつかった時に「ドアに因縁つけてガン飛ばして恫喝」など、モノに対して大きな声を出すという方法もある。

P10「くだらないの中に」より


「ん? こんなくだらないことなら考えたことあるぞ? ああ、あの大スター星野源も結局は私たちと同じ人間なんだ」とすぐに気づくことができます。仕事に苦しみ、くだらないことを考えたり、奇行ともとれるような行為に及んだりして逃避し、それでも前へともがいているただの1人の人間なんです。

こういうと「え? スターの日常が知りたかったのに私たちと同じじゃ意味ないじゃん」なんて言い出す人もいるでしょう。

しかし、この人は単純にめちゃくちゃ文章が巧いんです。しかも、ほんの数ページ読むだけで、それが伝わってくるくらいにです。

他の著作の中で、「メールを書くセンスが壊滅的だったから書くことを仕事にして強制的に鍛えた。」なんて語ってますが、星野さんのモノの見方、言葉選び、どれをとっても素晴らしい。

小説などを読むとき、「筆者の顔は見えない方がいい」などと言ったりしますが、ことエッセイにおいてはこんなに便利なことはありません。あの大スター星野源の日常を星野さんの声で、動きで、表情で、簡単にイメージすることができるんですから。

日頃からあまり文章を読まないそこのあなた、読みたくても時間のないあなた、この短くつまらない文章を最後まで読む力があれば絶対に大丈夫です。星野源さんの文章は、この何倍も面白いこと間違いなしです。

ぜひこの「読む日常系コメディドラマ」をお試しあれ。

(文・セロ弾きの書店員)

セロ弾きの書店員(せろひきのしょてんいん)
何となくバイトとして書店業界に入って気付いたら3店舗目、気付いたら社員になっていた。雑誌担当。文芸書担当を兼任していた際、遊泳舎の書籍に出逢い惹かれる。すぐに職場を辞めて遊泳舎に転職したいと言いはじめるため、書店名は明かせない。

よみがえる変態
著:星野源
発行:文藝春秋
ISBN:978-4167913557

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