遊泳舎の本棚047『超短編小説で読む47都道府県 旅する54字の物語』

みなさんは「短編小説」と聞いてどんな作品を思い浮かべますか? 私は太宰治の処女作品集『晩年』が好きで、折に触れてその時の心境に合った短編を読み返しています。

ちなみに短編小説に厳密な定義はないらしく、長編小説より比較的短いものを指すようです。中でも短い作品は掌編小説やショートショートといい、「ショートショートの神様」と呼ばれる星新一の作品が教科書に掲載されるなど、国民的にも親しまれてきました。現代でも、ベストセラー「5分後に意外な結末」シリーズを始め、ショートショートはスキマ時間で気軽に読めることから高い人気を誇っています。

今回はそんな掌編小説やショートショートを超えた、「超短編小説」と題された一冊を紹介します。47都道府県を旅するように紹介していく本であり、すべてのスポットが54文字の物語で表現されています。それぞれが2ページ完結で、右綴じの左ページに54文字の物語が、めくった次の右ページには物語の解説が添えられています。それぞれの物語は単に土地の紹介に終始するのではなく、クスリとするオチがしっかり用意されているため、「超短編小説」の名は伊達ではありません。

地獄をクビになった鬼は、地上で地獄巡りを開業。しかし、人間たちは「あ~極楽」と言って帰っていく。また失敗だ。

(P175「第76話 温泉地獄」より)


これは、大分県を代表する観光地である別府温泉の「地獄巡り」をモチーフにした物語です。「鬼が開業した」というファンタジー要素を加えつつも、「人間たちは極楽と感じる」と観光地の魅力も伝え、それをきっちり54文字で表しているのは見事としか言いようがありません。

さらに、解説ページの下部には各土地について学べるミニコラムが掲載されています。教養を深め、さらにその土地について興味が湧くきっかけになる嬉しいポイントです。

鯖江市でめがねフレームの生産がさかんになったのは、農家がはじまりでした。福井県は雪が多く降るため、農家は冬に仕事ができません。その代わり、めがねフレームを作る仕事をするようになったのです。

(P76「54字には収まらない福井県の魅力①」)より


また、各章の始まりには地方別の地図が掲載されており、物語の舞台となった名物や観光地が示されています。ガイドでもなく、紀行文でもない。フィクションとノンフィクションが融合した、唯一無二の一冊です。ぜひ、本書を片手に旅をしながら、旅行記の代わりに自分なりの「54字の物語」を綴ってみてください。

(文・望月竜馬

超短編小説で読む47都道府県 旅する54字の物語
編著:氏田雄介
絵:武田侑大
発行:PHP研究所
ISBN:978-4-569-78976-7

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