「自分に描けるものを模索して今の作風にたどり着いた」イラストレーター・いとうあつきさんインタビュー

イラストレーター・いとうあつきさん。大胆な構図や美しい色遣いによって、実在する物や風景さえも幻想的に描き出したイラストが魅力的です。そのロマンチックな世界観には、子供から大人まで、思わずうっとりしてしまうほど。

今年1月には初の個展「Night Out」を開催。そこにお邪魔させていただいたのが、いとうさんとの初めての出会いでした。その後、今月発売となった『26文字のラブレター』ではイラストを担当していただきました。60作品の都々逸ひとつひとつをイラストつきで紹介する圧巻のボリュームもさることながら、いとうさんによる見事な現代解釈も話題を呼んでいます。

一体、いとうさんはどのようにして作品をつくられているのでしょうか。その裏側に迫るべく、今回、お話を伺ってまいりました。

1月に行われた個展「Night Out」の様子



「物語」のある仕事が楽しい

――普段は主にどういうお仕事を手がけていますか?

広告や装画、小説の扉絵などです。

――どういうお仕事が一番楽しいですか?

小説のような物語があるお仕事は楽しいです。普段、自分一人で描いていると自分だけの世界になってしまいがちなので、お仕事で他の人が作った物語に関われると嬉しいですね。

――今回の『26文字のラブレター』はどうでした?

とっても楽しかったです!
依頼を頂いたのは詩に興味を持ち始めた頃で、茨木のり子さんの『詩のこころを読む』という本を読んでいました。
そこで紹介されていた黒田三郎さんの「僕はまるでちがって」という詩を読んで感動して泣いてしまって。そこからどんどん興味が増していって、他の詩も読むようになりました。
詩と都々逸はちょっと違いますけど、そういうタイミングだったので「…き、きた!」と思いました(笑)。

――「都々逸」ってご存知でしたか?

聞いたことがある程度でした。「三千世界の烏を殺し、主と朝寝がしてみたい」のような有名なものは知っていましたけど……。
ただ、最初に企画内容を伺った時点で、都々逸に私の絵という組み合わせが面白いなと思ったし、その後実際に見た掲載予定の都々逸が素晴らしかったので、描く前から「絶対面白い本になる!」と確信していました。

いとうさんがイラストを担当した『26文字のラブレター』
60点にもおよぶイラストほぼ全てが描き下ろし


都々逸の解釈と、表現へのこだわり

――具体的な絵の内容はほとんどお任せしてしまいましたが、そこは大変ではなかったですか?

もともと落語のような、歴史のある文化だけど今見ても面白い、というものが好きなので楽しかったです。アイデア出しも順調でしたが、単純にボリュームがあったので描く作業は大変でした(笑)。

――最初にラフをいただいた段階で、発想に驚かされました。もう、一枚目から凄かったので。

むしろよくあんなに任せていただけたな、と思いました。
都々逸のリストをいただいた時に「女性が詠んだんだろうな」というものを男性で描くとか、同性同士のイラストを入れたりとか、「普通こう」という流れから外して描いたものを多く入れたのに、すんなりOKだったので……。

――確かにそれは感じていて、あえて都々逸から受ける印象とは逆の目線になっているイラストは結構あったように思いました。おそらく意識的にそうされているのかな、と。

「男らしさ/女らしさ」をはじめ、生活の中で「普通」を押し付けられることに違和感を感じることが多かったので、折角本を出すこの機会にいろいろと挑戦してみたかったんです。
恋愛というキャッチーなテーマではありますが、たくさん考えて描いたので、思いが伝わっていたらいいなと思います。

――『26文字のラブレター』の中で印象に残っている絵はありますか?

発売前にサンプルとしてSNSで公開したイラストは基本的にお気に入りです。
それ以外だと本文2枚目の「いくど逢っても嫌いはきらい 初対面でも好きは好き」のイラスト。

(本文P12より)


作品にも影響を受けた「落語」

――落語がお好きということですが、落語にハマったきっかけはなんですか?

ずっと興味はあったのですが、最初の一歩が踏み出せなかった時に、勤めていた会社の落語好きな先輩に連れて行ってもらいました、その後、別の機会に友達と見に行った時に「推し」を見つけて。

――「推し」!?

古今亭志ん輔師匠です。大好きです。

――落語にも推しとかあるんですね。

ふとしたタイミングで現代の話題をスッと差し込んできて、それが落語の中でも浮いてないし、笑えるポイントにもなっていて吃驚して……心を鷲掴みにされました。そこからは一人でも通っています。

――そういったところからも作品のアイデアが生まれたりするんですか?

落語は結構影響を受けたと思います。お爺さんが話しているのに女の人に見えたりとか、仕草だけで風景が見えたりする時があって。「描かなくても伝わるな」というさじ加減は、落語みたいなことができればいいなといつも思っています。

――全てを説明せずに、相手に感じ取らせる。ある程度受け手の方を信頼してないとできないですもんね。


「好きなもの」と「描けるもの」は違う

――イラストのお仕事はいつからしていますか?

今の画風になったのはここ2・3年なので……。
装画を描きたいと思ったことがきっかけで、だんだんと今の画風になりました。

――では、結構意識して今の画風になったんですね。

そうですね。

――やっぱり画風を変えてからお仕事の幅が広がりましたか?

変わったと思います。『26文字のラブレター』もそうですが、物語に関係するようなお仕事が増え始めて嬉しいです。

――お仕事につなげるために意識していることはありますか?

昔は「可愛い女の子」を描くのが好きで、それ以外に興味が持てなくて、背景も、男の人も描けなかったんです。ただ、心理学を勉強したこともあり、今の自分は人の外見にあまり興味がないことに気がついて「可愛い女の子」を描くことを諦めた日がありました。(笑)
そこから「自分にできることをやろう」と腹を括って、色々なものを描くようになって、興味の幅も広がり、いい方向に向かったような気がしています。

――では、今の絵柄は割と得意なものを描いているんですか?

はい。昔描いていたような絵は今でも好きですが、自分には向いていなかった。今はいい意味で上手いとか下手とかを気にして描かなくなったので、すごく気が楽になりました。日々の学びや発見も多く、描いていて楽しいです。

――今の道が自分に合ってるっていうのは、描きながらだんだん分かって来たんですか?

そうですね。ここ数年は特にイベントや個展でお世話になっているギャラリーさん、SNSなど、色々なところに顔を出して、色んな人の価値観に触れるようにしています。そういう日々の出会いの中で、自分が好きなことや得意なことは何なのか考え続けることを大切にしています。

いとうさんが参加された「東京創元社の本を描く2」展示の様子


やっぱりイラストは楽しい

――この先やってみたいお仕事はありますか?

今回、自分の名前が入った本を作るというのは想像以上に楽しかったし、勉強にもなったので、またこういった機会を頂けるように頑張ろうと思いました。

――では最後に、いとうさんにとって「イラスト」とは?

「一番楽しいこと」です。今でも何より楽しいです。

――それ以上の答えはないかもしれませんね。いとうさん、ありがとうございました!

(取材・遊泳舎編集部)

いとうあつき
1990 年生まれ。東京都在住。文教大学教育学部卒業。2016 年よりフリーランスのイラストレーターとして活動。
Web: itoatsuki.tumblr.com/
Twitter: @atuki2126
Instagram: @atsuki_ito_


個展のお知らせ

来年2月に、いとうさんの個展が開催されます。ぜひ足を運んでみてください。

いとうあつき個展「白日夢」
2020年2月1日(土)~11日(火・祝)※3日・4日休み
会場 ondo STAY&EXHIBITION
〒135-0024 東京都江東区清澄2-6-12
https://ondo-info.net/



『26文字のラブレター』サイン本プレゼントキャンペーンを実施します

※応募は締め切らせていただきました。たくさんの方々のご応募、ありがとうございました。

サインとともにハンコを押すいとうさん。オリジナルのロゴが可愛いです


『26文字のラブレター』の発売を記念して、いとうあつきさんの直筆サイン本を3名様にプレゼントいたします。
いとうさん特製のハンコも押してある、限定のサイン本です。この機会にぜひご応募ください。

応募方法
1. 遊泳舎のTwitterをフォロー
2. 下記のツイートをRT

〆切
2019年12月27日(金)23:59まで

※当選者にはDMでご連絡いたします。
※参加にはTwitterの登録が必要です。あらかじめご了承ください。

Begin typing your search term above and press enter to search. Press ESC to cancel.

Back To Top