2018年12月4日、遊泳舎の最初の書籍となる『悪魔の辞典』『ロマンスの辞典』が発売になりました。この2冊はともに“言葉を楽しむ辞典”として立ち上げた「YUEISHA DICTIONARY」のシリーズです。
この「遊泳舎の本棚」は、遊泳舎編集部の書棚に置いてある本を独断と偏見で紹介していく連載です。現在、日本では毎日200点ほどの新刊書籍が発売されているといわれています。
私たち編集者や選書、販売のプロである書店員、読書家と呼ばれる方々でも、すべての本に目を通すことはできません。そんな中、出会えた本は運命だと思うのです。この連載をきっかけに皆様が運命の一冊に出会えたとしたなら、最上の喜びです。
第1回は、「YUEISHA DICTIONARY」を立ち上げるきっかけになった名著をご紹介いたします。
アンブローズ・ビアスという人物を知っていますか? 19世紀末~20世紀初頭にかけて活躍したアメリカの文筆家です。代表作は1911年発行の『悪魔の辞典』(原題:The Devil’s Dictionary)。さまざまな言葉の意味を違った角度から、ブラックユーモアを交えて再定義したパロディ辞典の元祖です。その鋭い切り口に、芥川龍之介も多大な影響を受けたといわれ、多数の日本語訳版が出版されています。
その中でも本書『新編 悪魔の辞典』は、編訳を担当された西川正身氏のわかりやすく、ウィットに富んだ訳がビアスの皮肉を、ほどよい匙加減で楽しませてくれます。
【大砲】国境を修正するのに用いられる道具。
(本文中より引用)
【餌】釣り針の味を一層よくするために作った料理。その最上のものが美貌。
私がこの本と古書店で出会ったのは16歳のとき。その衝撃は今でもはっきりと憶えています。
本来、言葉の意味を定義する「辞典」の性質を逆手に取るさまは「定義という名の鎖を断ち切り、言葉に自由を与えた」といっても過言ではないほどに痛快で、思春期の真っ只中でビアスを知ったことが、捻くれた私の性格形成に大きな影響を与えたことは疑いようもありません。
言葉の可能性を極限まで追求した『新編 悪魔の辞典』は、「YUEISHA DICTIONARY」シリーズの『悪魔の辞典』と『ロマンスの辞典』とともに言葉の面白さを感じることのできる一冊です。
気になった方は、ぜひ読んでみてください。
(文・中村徹)
『新編 悪魔の辞典』
著:ビアス/編訳:西川正身
発行:岩波書店
ISBN:978-4-00-323122-7