2018年12月4日に遊泳舎の最初の書籍『悪魔の辞典』と『ロマンスの辞典』が、2タイトル同時発売になり、出版社としてのスタートを切りました。
この編集日誌では、本の制作過程をはじめとした遊泳舎の活動の裏側を少しずつご紹介していこうと思います。
今回は「遊泳舎」という社名に込めた2つの想いについてです。
新しい形の楽しさを読者に届ける
1つ目は、新しい形の本の楽しさを読者に伝えたいという想いです。
現在、本(出版・印刷)の役割は、ひとつの大きな節目を迎えていると感じています。中世以降、長きに渡って情報獲得の最重要手段を担ってきましたが、近年はその役目がインターネットに移行しつつあります。
実際に調べ物をするのにインターネットは便利です。信憑性の問題はありますが、それも徐々に解決されていくでしょう。現在の日本ではそれほど浸透していませんが、書籍の内容は電子書籍で手に入れるのが、当たり前になるかもしれません。
では将来的に本はなくなってしまうのでしょうか? 僕はそんなことはないと思います。
本は「読む」だけでなく、「モノとして体感する」という新しい意味を見出せると感じているからです。
「子どもの頃に読んだ、布貼りの豪華な装丁の分厚い本を読んだことを今でも憶えています。自分の手で1ページずつめくっていくからこそ物語に没入できる。これがスライドするだけで読めたら魅力が薄れてしまうはずです」
これは以前、取材をさせてもらったある編集者の言葉です。
遊泳舎では、紙や言葉、デザインや質感といった要素を軸に、読書という体験を追求していきます。
出版業界を楽しく渡っていく
現在、日本は未曾有の出版不況といわれています。売り上げのピークは1997年と20年以上も前で、以降は常に右肩下がり。売り上げはピーク時の半分、書店は1日1店舗のペースで減少している、などネガティブな情報を挙げるとキリがありません。
そんな出版業界でも上手く、そして楽しく渡っていきたいという想いが2つ目です。
前述した本の役割はもちろん、電子化やSNSをはじめとするインターネットとの付き合い方や、流通の仕組みなど、変化が求められている時代だからこそ、いかに渡っていくかが大切になってきます。
遊泳舎のキャッチコピーは、「心に飛び込む出版社」です。漕ぎ出した船は決して大きくはありませんが、読者の皆様はもちろん、書店をはじめとする、本に関わるすべての方の心に飛び込む本づくりをすることが、この大海原を遊泳する一番の方法だと考えています。
本を通じて皆様と繋がれることを楽しみにしています。
(文・中村徹)