遊泳舎の本棚 002『エンドロール』

12月も後半。今年も残りあとわずかですね。

先週から始まったこの連載。代表の中村と私の二人が、(基本的には)毎週交代で一冊の本を紹介する企画です。「遊泳舎の本棚」とは言ったものの、二人だけの会社なので、選択肢は当然二人の本棚だけ。極めて主観的なセレクトになってしまうことをご容赦ください。

さて、みなさんが書店で本を選ぶときに「欲しい」と思う本のポイントは、どんな部分ですか?

私は直感で本を選ぶタイプですが、自分の本棚を見返したときに、「ときめき」を感じる本に吸い寄せられている傾向に気づきました。本のテーマや内容、文体はもちろん、たとえばうっとりするような美しい装丁をしていたり、不思議な手触りの紙を使っていたり、あるいは開いた時のインクの匂い、重さ、書体の選択ひとつに至るまで、ときめきを感じるきっかけは無数にあります。

そんな私が今、最高にときめきを感じる一冊は、『エンドロール』。

出版レーベル「PAPER PAPER」より、今月発売されたばかりの新刊です。注目の男性の書き手たちによる、短歌や小説、エッセイなどが収められています。

日本の書籍では珍しく、カバーのないペーパーバック風の仕様。入学式の後、新しい教科書を受け取ったときの気持ちを思い出しながら、この本を手に取りました。全面にイラストを使った大胆な装丁ですが、紺色の細い帯がネクタイのようにグッと印象を引き締めています。

元々『でも、ふりかえれば甘ったるく』という、女性9人によるアンソロジーの男性版として誕生した本作。『エンドロール』のタイトルにも表れているように、どの作品も「過去」というキーワードがひとつのポイントになっている気がします。

良くも悪くも、過去と現在、そして未来は切っても切れない関係です。

人生の終わりに限らずとも、たとえば失恋や結婚、卒業や退職など、人生の岐路に立ったとき、短いエンドロールが流れている場面があるはずです。そんなとき人は、ふと過去をふり返ってしまうものでしょう。

本書の中で特に印象的だった文章があります。

未来は美しい予感に満ちていて
過去は甘い冗談のように溶けてゆく

(潮見惣右介「美しい予感」より引用)


時間が経ったからこそ、見えてくるものがある。思い出に変わったからこそ、煌めき出すものがある。

本書に収められた作品群は、どれもセピア色の絵具をひと刷毛したような輝きを放っています。最後の「あとがき」に至るまで、軽々とは読み飛ばせない言葉の連なりばかり。

どうかゆっくりと味わいながら、考えながら、そうして自らの過去をふと思い出したりしながら、少しずつ読み進めてみてください。

(文・望月竜馬

エンドロール
発行:株式会社シネボーイ
ISBN:978-4-00-323122-7

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