「綺麗な部屋」の定義はなんだと思いますか? 私は「今すぐに人を招いても恥ずかしくない状態」だと思っています。
人気テレビ番組『家、ついて行ってイイですか?』を観ていると、駅前で声をかけられた一般人が番組スタッフとともに帰宅し、玄関先でスタッフを待たせたまま片づけを終えてから出迎えるくだりがあります。生活感があって好きなシーンなのですが、私は「もし自分が取材を受けたら、どれくらいスタッフを待たせることになるだろう……」と恐ろしくなります。それほど、片づけという問題は人を悩ませるのです。
以前友人の家にお邪魔したとき、隅から隅まで整頓されていて驚いたことがあります。机の上に何もない状態で、レシートや公共料金のハガキなどが一枚も散らばっていないのが、不思議で仕方ありませんでした。もちろん、来客に備えてあわてて片付けている可能性も否めませんが、友人宅の物の配置などを注視してみると、少なくとも我が家にはない「整理整頓のルール」みたいなものがあるように思えてならなかったのです。
私も決して衛生観念が欠落しているわけではなく、思い立って大掃除をした直後には部屋がピカピカになります。ただ、その状態を保つのがこの上なく難しいのです。しかし、それは自分の意志が弱いことばかりが原因ではありませんでした。部屋が散らかってしまうのには、それなりの理由がある。そう気づかせてくれたのが『片づけの解剖図鑑』です。
もし、あなたの家が、片づけても片づけてもまたすぐに散らかってしまう家だとしたら……それはあなたの責任ではありません。おそらく、あなたの家を設計した人の責任です。
(P3「はじめに」より)
本書は、台所の形やシンクの広さ、窓や収納の位置関係など、「設計」という視点から「どうすれば心地よい住まいになるのか」を解説した一冊です。玄関やリビング、浴室などの場所を始め、仏壇や自転車、さらには犬に至るまで、生活のあらゆる場面を想定して、様々なパターンの設計のアイデアが紹介されています。それぞれの設計のメリットやデメリットがイラストとともに視覚的に伝わってくるため、目的に合わせてイメージが膨らみます。
キッチン廻りの布製品に共通の夢。それは、「いつも干されていたい、乾いていたい」という願いです。
(P86「布製品」より)
ユーモア溢れる言い回しも魅力的です。長く住み続ける家をパートナーのように捉えながら、楽しく片づけについて考えるきっかけになります。家具の配置や収納の使い方など、すぐに応用できるアイデアも満載です。
家を建てたり、リフォームをしたりする予定がなくても、まずは本書の帯文の通り「なぜ、散らかるのか?」を理解することが重要です。得体の知れない敵は怖いけれど、正体が明らかになれば拍子抜けすることが多いもの。これまで「なんとなく散らかっていた」生活が、本書を通してきっと鮮明になってくるはずです。そして部屋が美しくなった暁には、綺麗な本棚の一角に、ぜひ本書を並べることにしましょう。
(文・望月竜馬)
『片づけの解剖図鑑』
著:鈴木信弘
発行:エクスナレッジ
ISBN:978-4-7678-1669-2