遊泳舎の本棚 003『止めたバットでツーベース 村瀬秀信 野球短編自撰集』

皆さんが本に興味を持ったのはいつですか?

私が本に興味を持ったのは、小学校の高学年のときです。野球少年だった私は、王や長嶋、ルースやディマジオなど日米問わず、古い選手の列伝を読むのが好きでした。以降、野球に限らず様々な本に興味を持つようになりましたが、今でもスポーツのノンフィクションは欠かさず読んでいます。

今回は、そんな私が今一番、読んでいて心踊る野球ノンフィクション『止めたバットでツーベース』をご紹介します。

本書は、スポーツ誌「Number」などで記事を書く、ライターの村瀬秀信氏よる野球短編自撰集です。「本は好きだけど、野球には興味ないんだよね」と思ったアナタでも十分に楽しめる内容になっています。

ノンフィクションの原稿は、取材に基づく事実の積み重ねが基本ですが、それゆえに淡々と情報のみを繰り返す内容になりがちです。場合によっては途中で飽きてしまうなんてこともあります。

しかし、村瀬氏の文章からは飽きがくることはありません。なぜなら、随所に例え話や余談、ときにはベテラン漫才師のようなツッコミを入れるなど、話の寄り道が抜群に上手いからです。気づけばあっという間に1章分を読み進めているなんてことも、しばしば。

ちなみに個展のサブタイトル「魔球の伝説」とは、インディ・ジョーンズの2作目「魔宮の伝説」をもじっているらしい。つまり、次に「最後の聖戦」がありますよ、この先続きますよ……という暗喩か。ふざけんな! ハナっから来季もやる気じゃないか!

第6章「ヤクルト芸術家」より引用


また、読めば読むほど、書き手の顔や取材対象者との距離感が見えてきます。そして、次第にその文体に感情を揺さぶれていくのです。こういった点からも、単純に取材した内容を書き連ねただけでなく、著者が取材対象者に真摯に向き合ってきたことが伝わってきます。

帯文に「スポーツライターではない“雑文書き”が愛し、伝えてきた“野球のすべて”。」と書かれている通り、野球というフィルターを通し、様々な人たちの人生を色彩豊かに描き出した『止めたバットでツーベース』。野球ファンはもちろん、純粋に人間の生き様に迫った傑作を読むことは、単なる情報を得ることにとどまらない、読書体験だと感じさせてくれます。

(文・中村徹

止めたバットでツーベース 村瀬秀信 野球短編自撰集
著:村瀬秀信
発行:双葉社
ISBN:978-4-575-31409-0

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