遊泳舎の本棚039『金曜日の砂糖ちゃん』

「金曜日」と聞くと、みなさんは何を思い浮かべますか? 私は決まって、絵本『金曜日の砂糖ちゃん』のことが頭をよぎります。作者は国内外で高い評価を受ける、絵本作家の酒井駒子さん。この不思議なタイトルからも想像できるように、本を開けば、そこには夢と現実の狭間を行き来するような、幻想的な世界が広がっています。

まず、雲や風を思わせる模様入りの紙を使用した本扉に描かれているのは、小さなミツバチのイラスト。半透明の紙なので、次のページのタンポポのイラストが透け、ミツバチが止まったように見える仕掛けになっています。こうした細やかな工夫が、期待の膨らんだ心を掴んで離しません。

収録されているのは、表題作「金曜日の砂糖ちゃん」をはじめ、子どもがひとりで過ごす時間を描いた3編。「砂糖ちゃん」というネーミングが象徴しているように、酒井駒子さんの言葉選びは独特です。そこから紡がれる文章は極めて詩的で、大人が読んでもうっとりしたり、深く考えさせられたりする表現がつまっています。

今日 ぼくは
さみしいことが
あったから

つまらないことが
あったから

知らない道を
とおって 帰る

「草のオルガン」より

夜と夜の あいだに
目を さました
子どもは…

母親の 引き出しを あけ
白くて ひらひらの
シュミーズを 取り出し(後略)

「夜と夜のあいだに」より


どこか寂しさを感じさせる絵画のようなイラストが、場面場面を美しく描き出して、短編映画を見ているような気持ちで世界観に没入してしまいます。一枚の絵のはずなのに、その臨場感に息をのんでしまうほどです。

また、造本へのこだわりも魅力的です。絵本としては小ぶりで、文芸書よりは少し大きい変形のサイズ感。子どもが背伸びしているような、大人が童心に帰りたくなるような、ある意味そんな不安定さを感じられる、絶妙な佇まいです。薄いけれどハードカバーのしっかりとした感触は、こっそりと鞄に忍ばせたくなる、まるで秘密の宝物のよう。

誰もが子ども時代に、ちょっぴり不思議な体験をしたことがあるのではないでしょうか。誰も信じてくれないし、ふりかえれば現実にはありえないように思えることでも、何故だか自分の記憶にだけ鮮明に残っている。そんな懐かしい記憶の箱を覗き見るような気持ちで、どうかこの本を開いてみてください。

(文・望月竜馬

金曜日の砂糖ちゃん
著:酒井駒子
発行:偕成社
ISBN:978-4-03-965240-9

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